解決!空き家問題を読んだ感想・評価【著・中川寛子】
巷では、住宅着工件数すなわち「どれだけ新たな住宅が供給されているのか」を景気の判断基準にしています。
つまり、新たな住宅がどんどん市場に供給されればされるほど、景気が良くなっていると判断するわけです。
景気が良ければ万事が解決できる、というのが自由主義経済社会の常識です。そのために、政府や行政は税金の投入や規制緩和などさまざまな手を尽くして、景気を上向けようとしています。
ところが現在、総世帯数を上回る住宅が供給しているにもかかわらず、その方針を変える気配は見えません。
そのため、当然のことながら「誰も住んでいない住宅」も増え、その数は人口の減少とともに加速しています。
本書は、ようやく議論が高まってきた空き家問題をど真ん中に据えた、日本の住環境が抱える社会的な現状を知るためのリアル・レポートです。
「解決!空き家問題」の基本情報
- タイトル:解決!空き家問題
- 著者:中川寛子
- 出版社:筑摩書房(ちくま新書)
- 価格:820円
- 発行年月日:2015年11月10日 第1刷
- 評価:
(5点満点中)
本書をおすすめしたい人
- ニュースでも話題になっている空き家問題について学んでおきたい方
- 空き家と不動産売買の関係に興味がある方
- 将来的に所有不動産や相続不動産が空き家になったときの対処について知りたい方
「解決!空き家問題」の概要
著者は、生活総合情報サイトAll About(オールアバウト)の「住みやすい街選び」ガイドを担当するなど、住まいと街の解説者として活字やセミナーで情報を発信している人物。
本書は8章から構成され、それぞれの章の概要は次のとおりです。
第1章 いずれは3軒に1軒が空き家?
この章では、日本の空き家問題に関する現状と、どうして空き家が増えるのかという発生のメカニズムがテーマになっています。
まず、7軒に1軒が空き家になっているという総務省のデータを示し、シンクタンクからは2033年に3軒に1軒まで進む予測値が発表されていることを指摘。
その背景に、今後も景気対策として住宅の供給が続けられることと、その理由を解説しています。
さらに、相続対策と称した需要を無視した住宅の供給や、登記制度の不備、地方の空洞化など社会問題にも言及。
空き家の「何が問題なのか」をあぶり出しています。
第2章 空き家活用を阻む4要因
この章では、空き家を生む原因とされる立地、既存不適格の建物、活用に消極的な所有者、不安を解消して安全を担保すべき窓口の存在がテーマになっています。
なかでも、シェアハウスやグループホーム、Airbnb(エアビーアンドビー)といった柔軟な対応例がある一方で、法的な整備が追いつかない現状を指摘。
国土交通省の「賃貸借ガイドライン」を図表化して国の空き家対策の大枠を示しながら、行政や不動産会社など実質的に相談できる窓口がほとんどない現状にも言及しています。
第3章 空き家活用3つのキーワード
この章では、空き家問題を解決できる鍵を握ると著者が考える、収益性、公共性、社会性がテーマになっています。
ここでは、これら3点で著者が効果を上げていると判断した事例を紹介。
特に社会性では、空き家バンクの成否を分けるポイントにも言及。人口減少地域であっても空き家回避の手段が講じられることを示すともに、行政の手腕で明暗が分かれる現実に切り込んでいます。
第4章 大都市・地方都市の一等地
この章では、前章で紹介した3つのポイントのうち、空き家活用の収益性がテーマになっています。
具体的にいくつかの収益をあげている事例を並べ、既成概念にとらわれない柔軟な発想が解決策に欠かせないことを裏づけようとしています。
第5章 立地に難ありの都市部・一部農村
この章では、公益性を優先させた政府の施策や各地の具体例を挙げながら、空き家対策の日本各地の動向を検証。
情報発信力の差によって格差が生まれている現状にも触れています。
第6章 農村・地方都市
この章では、収益ではなく、行政が主体となって地域活性化や街おこしとリンクさせた、社会性にフォーカスした事例を紹介。
地方の過疎地だけでなく、首都圏でも空き家バンクが機能している現状など、市場原理だけではない解決策の糸口を示しています。
第7章 空き家を発生させないために
この章では、顕在化している空き家だけでなく、将来的に空き家を引き起こす要因に言及しています。
その解決策の例として、空き家に繋がる高齢者の孤立化を解消する各地の事例を紹介しています。
第8章 自分事としての空き家問題
この章では、「空き家問題が我が身に降りかかってきた場合の対処法」がテーマになっています。
買う時、相続で残す時、相続で受け取った時のそれぞれで、注意すべき点を解説しています。
「解決!空き家問題」の感想
需要と供給がマーケットの大きな決定因子であることを考えると、空き家問題が不動産売買にとって深刻な悪影響を及ぼすことは、まず間違いありません。
さらに空き家は、インフラという観点からも役立たずとなり、ムダな費用ばかりかかってしまう「やっかいな状態」に成り下がっていくばかりなのです。
こうした「やっかいな状態」を招かないために、論点を整理し、現状がどうなっているのかを客観的に示そうとしたのが、本書です。
社会現象を論文的にしっかりと解説することに主眼が置かれているため、不動産取引という視点で情報を得るには、もの足りないと言わざるをえないのが正直なところ。
とはいえ、各地で取り組まれている空き家対策の具体例も抱負に盛り込み、これ1冊だけで空き家問題のオーソリティになることができるほどの濃い内容です。
まさに「空き家問題のホワイトペーバー」と呼ぶに相応しい、網羅的かつ専門的な教科書と言えるでしょう。
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↑両親の家が空き家になった直後に売却した方の体験談です。