本当に役立つマンション購入術(著・のらえもん)を読んだ感想
1990年代後半から2000年代前半にかけて、関係法令の創設や改正によって、特定のエリアに対する日影や容積率などの規制を緩和する動きが進みました。
この結果、誕生したのが、タワーマンションと呼ばれる、40階から50階以上の高層住宅です。
周辺のインフラ整備を伴う再開発地域に建てられたことから、21世紀の新たなライフスタイルを象徴する住まいとして注目されました。
しかし、そんな羨望の的だったタワーマンションのイメージを一気に変えてしまったのが、2011年の東日本大震災。
それまでの快適な環境を支えていた設備は、不安定なエネルギー供給下で足かせとなり、買い物どころかゴミ捨てもままならないような『不自由な生活』を強いられる事例があちこちで聞かれました。
こうしたニュースは大手メディアが興味本位に取り上げることも多く、セレブというイメージのタワーマンション住人への反感も相まって、実態をなおざりにしたまま「タワーマンションは不良不動産」といった噂が独り歩きする状態でした。
一方で、東日本大震災前にタワーマンションを購入して住んでいる人が、なぜタワーマンションだったのかを含めて、震災後の状況を現場から綴るブログを発信し続けています。
本書は、その代表的なブログの管理人である「のらえもん」が、自らの経験を基にして「マンション購入術」を伝授してくれる指南書です。
「本当に役立つマンション購入術」の基本情報
- タイトル:専門家は絶対に教えてくれない!本当に役立つマンション購入術
- 著者:のらえもん
- 出版社:廣済堂出版
- 価格:800円
- 発行年月日:2015年10月25日 第1版第1刷
- 評価:
(5点満点中)
本書をおすすめしたい人
- 不動産売買のために情報収集をしたい不動産初心者の方
- タワーマンションの購入に興味がある方
- マンションの購入から売却までの方法を知りたい方
「本当に役立つマンション購入術」の概要
著者は、自らが暮らす東京湾岸エリアの住宅情報や、不動産相場、マンション購入のノウハウなどをテーマにした記事を配信する「マンション購入を真剣に考えるブログ」の管理人。
ブログに寄せられるマンション購入や売却の相談にも応じ、その数は2011年9月の運営スタートから本書執筆時の2015年10月までで500件を超えているとのことです。
本書は、類書がそれぞれの専門分野を専門家が解説するもので占められていたことに疑問をもった著者が、個人や消費者の視点でマンション購入を捉え直そうとするものです。
本書は6章に分けられ、それぞれの内容は次のとおりです。
第1章 戦略的思考で考えるマンション購入とは
この章では、著者が考える「マンション購入」に対する基本的な2つのルールと、それに沿ってどんなテーマで展開していくのかを説明しています。
著者が考えるルールとは、1つは著者が良いと考える物件とその買い方。
それは、住宅ローンを目いっぱい使い、返済期間のどの時点で売却しても残債が残らない、つまり物件価値の目減りが遅いというものです。
そして、その条件を満たすマンションに住むことで、自分とその家族の幸福が最大に増やせることを優先させるというのが、2つめのルールです。
こうした条件の前提となる、マンションか戸建てか、購入か賃貸かといったにも数字を示しながら端的に言及しています。
第2章 マンション購入前に知っておきたいこと
この章では、マンション購入のコンセンサスとも言える、必修の事前知識について触れられています。
住宅を構成する要因にはどんなものがあり、なにを優先すべきなのかを、消費者の視点で整理しています。
また、新築マンションにまつわるプレミア、オプション、モデルルームなどの内容を明らかにして、客観的な比較のできるマインド作りのための情報を提供しています。
第3章 のらえもんに聞く!新築マンション購入編
この章では、新築マンションを購入するためのノウハウを、代表的な疑問に著者が答えるかたちで解説しています。
オプションについての見解や、モデルルームのチェックポイントなど、新築マンションの購入経験者ならではの具体的な判断基準が示されています。
ケーススタディでは、最上階の快適度、西向きと南向き、高層階と低層階、都心と郊外、タワーと低層といった悩ましい二択を実戦的に分析しています。
第4章 のらえもんに聞く!中古マンション購入編
この章では、中古マンションを購入するためのノウハウを、代表的な疑問に著者が答えるかたちで解説しています。
基本的に中古マンションは新築に比べて価格が相場に収斂されるため、著者の主張するリセールバリューの高い「お買い得物件」はないとしながら、その可能性と、チャンスを逃さないためのノウハウにも触れています。
さらに、4つのケーススタディで、中古マンション購入で陥りやすい過ちを避けるためのポイントも公開しています。
第5章 のらえもんに聞く!住宅ローン編
この章では、著者の主張の基幹となる住宅ローンの仕組みと利用の仕方を丁寧に解説。
特に、保証料の選び方と住宅ローンに附帯する特約保険の解説は貴重です。
第6章 のらえもんに聞く!購入後&売却編
この章では、リセールバリューにとって重要な管理と修繕に関する情報が書かれています。
また、売却という「出口」で物件価値の目減りを減らさないための、仲介業者選びの注意点についても解説しています。
「本当に役立つマンション購入術」の感想
この本には、いくつかの読者が超えなければならないハードルがあります。
まず、専門家ではないブロガーの書いたものを信用するかどうか。
不動産業界に縛られない立場だからこそ書けることに期待するか、無資格である立場のコンサルタントを納得できるかは、あくまで自己責任になるでしょう。
そして、ブロガーであるメリットの「自分の体験という信憑性」を、出版の機会に薄めてしまい、体験したことのない事象にも触れてしまっていること。
しかし、「本当に役立つ」ために声を上げ、念入りに調査した著者の姿勢は、本書に掲載されたデータや分析結果によって、きちんと検証できるようになっていると言えます。
本書の網羅的に細部まで有利と不利を徹底的に突き止めようとする姿勢は、消費者目線と言えるものです。
さらに、リスクについてもしっかり言及されているので、これを読めば、マンション購入に関するワンランク上の基礎知識を学ぶことのできる、「一般教養のテキスト」と呼んでも差し支えのない内容でしょう。