「マンションを相場より高く売る方法」の感想【著・風戸裕樹、吉川克弥】
マーケットを形成するには、取引を行う双方が納得する価値の設定が必要になります。これを、「相場」と言います。
相場は主に、供給側が決めた価値の対価について、需要側が状況などを考慮して調整、納得した時点で決められるわけです。
相場は、取引対象にかかった費用なども反映されますが、場合によってはまったく無視されることもあります。
例えば、需要が少ないのに供給が多いと、価格は下がります。閉店間際のスーパーで、売れ残った惣菜が半額になっているのは、この原理によるものです。
逆に、人気アイドルのお宝グッズのような、欲しい人が多いのに数が限られていている場合は、オークションに出品すると法外な値段が付いたりします。
不動産には、課税のために決められたその物件の価値は存在します。しかし、それを基準に売買されることはほとんどありません。相場をもとにした取引が一般的なのです。
相場が基準となるからには、売主が本来の価値と考えている価格からかけ離れたところで取引されることも稀ではありません。
そして、買い手市場であることの多い不動産では、価格が上げる要素よりも下げる要素のほうが多いのが現実です。
こうした現状を踏まえて、どうすればマンションを高く売ることができるのかというメカニズムを整理したのか、今回紹介する『マンションを相場より高く売る方法』です。
「マンションを相場より高く売る方法」の基本情報
- タイトル:マンションを相場より高く売る方法
- 著者:風戸裕樹+吉川克弥
- 出版社:株式会社ファーストプレス
- 価格:1,500円
- 発行年月日:2014年10月20日 第1刷発行
- 評価:
(5点満点中)
「マンションを相場より高く売る方法」の概要
著者の2人は、2010年に設立された(株)不動産仲介透明化フォーラムの設立メンバー。
風戸裕樹氏は、同社の代表取締役から、2014年のソニー不動産(株)の100%子会社化に伴って執行役員。
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吉川克弥氏は、取締役会長から子会社化後の不動産仲介透明化フォーラムのパートナー事業部長。いずれも業界に新風を吹き込んだと注目されたソニー不動産立ち上げのキーパーソンです。
本編は4章に分けられ、巻末に「マンション売却の基本」と題した、売却に関係する必要事項や専門用語の解説が付されています。
各章の概要は、次のとおりです。
第1章 マンション査定編
「査定価格を鵜呑みにするな!」という副題が付けられたこの章では、マンション売却の最初にして最大の関門である「査定」について解説。
一般的な不動産業者目線から、査定がどのような行程で行われるのかを明らかにして、マンションを高く売るためのスタート地点を誤らないための準備としています。
第2章 不動産会社の選び方編
「選ぶポイントと不動産会社のカラクリはこうだ!」という副題が付けられたこの章では、マンション売却の成否を分ける、仲介を依頼する不動産会社の見分け方について解説しています。
会社ごとに独自性の強い不動産会社の特徴をざっくりと把握しながら、仲介手数料無料の裏側、営業マンとの会話内容の分析なども掘り下げています。
第3章 売却活動編
「正しい売却活動をせよ!」と副題が付けられたこの章では、売却活動の注意点を詳しく解説しています。
売却活動に際して、方針を変更する前にチェックすべき7項目や、長引いたときの対処など、例を挙げてシミュレートできるように構成されています。
物件&事情編
「より高く売るためのヒントはこれた!」という副題が付けられたこの章では、マンション売却を成功に導くための裏ワザを満載。
そのうえで、個別性の高いマンションという商品の販売戦略を立てるには、「あなたのミカタになって、あなたのために汗をかき、悩み、アイデアを出してくれる会社(担当者)を選ぶしかない」と結んでいます。
「マンションを相場より高く売る方法」の感想
タイトルは、いかにも実用書的な、成功事例に沿ったノウハウ伝授という体。
しかし内容は、業界の「買い手主体」な慣習に巻き込まれないアイデアと、実践のための知識を学ぶことができる、未来型のガイドブックと言えるでしょう。
従来のノウハウとは一線を画すものとしては、まず査定の評価方法に新たな視点を加えたことが挙げられます。
これまでも、定量的な分析を行えるようにデータを多く集めること(つまり多くの業者に査定を依頼すること)、選択の基準はそのデータの根拠を理論的に説明できることなどは推奨されていました。
本書では、ここに「競合」という視点を絡ませ、市場原理に大きな影響をもたらす「買い手の事情」を重視した分析の必要性を説いています。
また、巻末には、マンション売却の基礎的な知識を補うためのキーワードの解説がありますが、このほかにも本編に4つのチェック表を挿入。
読み進めることで、マンション売却の理解と方向性の確認ができる、ドリル的な使い方ができるようになっています。
読んでノウハウを覚えた気になるのではなく、実際にマンション売却という修羅場を切り抜けるためのトレーニングもできる内容です。