「マンションは10年で買い替えなさい・沖有人」を読んだ感想
20世紀半ばの高度経済成長期、戦後生まれのベビーブーマーたちが憧れたのは、マイカーやマイホームを所有する暮らしでした。
もちろん、社会人1年生でいきなり家を買うことができる人は限られ、大多数は寮や賃貸暮らしからスタート。結婚して家族が増えることなどがきっかけで、定年までの住宅ローンを組んで一国一城の主になる、というのが「勝ち組」の一般的なパターンでした。
企業戦士としてモーレツに働きさえすれば雇用は保障され、年功序列で昇進し、それに伴って昇給もしていた時代の話です。
こうした需要を受けて、不動産業界ではベッドタウンと呼ばれる都市近郊の開発と住宅供給を積極的に行い、新築だけでなく中古の需要も高まることになりました。これにより、昇進や昇給の具合によって「住み替える」ことが可能になり、「いずれは郊外に庭付き一戸建てを所有して定年を迎え悠々自適の余生を送る、というのが「人生の成功」を象徴する一例として流布するようになります。
住宅ローンを払い終え、退職金と年金で暮せるころには庭付き一戸建てに住んでいるように上手く住み替えができる可能性も低くなく、その状態を「すごろくのあがり」に例えて「住宅すごろく」と呼んでいました。
つまり、サイの目の具合で「振り出しに戻る」ことはあるけれど、上手く選べば人もうらやむ「あがり」まで到達できることも、それほど難しくなかったのです。
ところが、バブル経済の破綻とともに、「住宅すごろく」の「あがり」への道のりは、きわめて狭き門になってしまいます。
こうした時代に生きなければならない人にとって、「住まいの買い替え」は当時とは比べものにならないぐらい、知識とノウハウを必要とするものになっています。
時代の変化に対応し、これからの日本経済の動向も踏まえて、「住宅すごろく」を「あがり」で終えることができる人生のための知識とノウハウを授けてくれるのが、この「マンションは10年で買い替えなさい」のテーマだと言えます。
「マンションは10年で買い替えなさい」の基本情報
- タイトル:マンションは10年で買い替えなさい
- 著者:沖有人
- 出版社:朝日新聞出版(朝日新書)
- 価格:780円
- 発行年月日:2013年11月20日第5刷
- 評価:
(5点満点中)
「マンションは10年で買い替えなさい」の概要
著者は、住宅分野でマーケティングと統計、そしてITの3つの分野を統合し、膨大なデータを分析ながら、依頼された調査に対応したりコンサルティングを行う、アトラクターズ・ラボ株式会社の創業社長です。
本書は4章で構成され、それぞれの概要は以下のとおりです。
第1章 住宅コストは賢い人ほど下がる
同じ時期に同じような条件のマンションを買ったにもかかわらず、買い替えに有利になったり、不利どころか買い換えができなくなるケースが発生することもあります。
本書では、「住宅コスト」と名付けた不動産に対する出費を分析しながら、対処法に言及。
お金を喰うだけのダメマンションではなく、お金を生む良いマンションを見分けて、上手く「あがり」へ駒を進めるための基礎的な知識に触れています。
第2章 自宅マンションを「資産にする7つの法則」
ここでは、マンションの価格に影響する7つの要素について解説。
現代の「住宅すごろく」を勝ち抜くために必要不可欠な、物件選びのノウハウを学ぶことができます。
第3章 人口減少時代のマンション購入の極意
前章で学んだ、自宅マンションを資産として活用するための基礎知識を、実践に応用するための具体的な方法を列記しています。
さらに、買い替えで有利になるワンランク上の物件を、背伸びしてでも買うための「理由」と「裏ワザ」にも触れています。
第4章 絶対に破産しないローンの払い方・売り方
ゲームなら「振り出しに戻る」になってもやり直せます。しかし現実社会では、下手をすれば住むところを失い、老後の安定など考えられない状況にもなりかねません。
そうした事態を招かないために、住宅コストを最適化するための基本的な考え方を確認。
また、本書のテーマである「10年で買い替え」のための、売却に役立つ極意を公開しています。
「マンションは10年で買い替えなさい」の感想
「住まいの購入は一生に一度のイベント」という先入観は、まだまだ一般的に薄れているとは言えません。
しかし、高度経済成長期のように「不動産は必ず値上がりする」という神話が崩れてしまった現在では、理論なくして「住宅すごろく」の駒を上手に進めることはできなくなってしまいました。
そんな時代だからこそ必要な、「あがり」に至る確率を高めるためのノウハウを惜しみなく公開しているのが、本書です。
1点分のマイナスは、随所に著者が運営するコンサルティング会社やインターネット・サイトへの誘導がちょっと目に付きすぎること。
こうした宣伝臭は、不動産業界全般への不信感にリンクしやすいといえます。そして、せっかくの論理的な解説も、半信半疑で読み進めなければならなくなってしまいます。
とはいえ、半分信じて読み進めるだけでも、「住宅すごろく」を勝ち進むための基礎知識をしっかりと身につけることができる内容です。
10年で買い替えができなくても、お金を生む自宅のために役立つノウハウはぜひチェックしておくべきです。