既存不適格のマンションを売却すると犯罪になるって本当?
現在、乗用車に乗るときは後部座席を含めて、シートベルトの着用が義務づけられ、違反した場合には運転者に違反点数が科せられます。
しかし、30年ほど前までは着用の義務があったのは、専用道路を走行するときの前の座席のみ。しかも、罰則はなしというのが、道路交通法におけるシートベルトについての適格な判断だったのです。
このように、技術や社会環境などの変化に対応するため、法律も改正されています。そうなると、今まで適法だったことも、法に触れてしまうということが起こり得るのです。
マンションなどの不動産も、「昨日まで問題がなかったのに今日から違法」という状況を免れることはできません。実際に、建築基準法は何度も改正が行われ、その結果、「今日から違法」という建物が発生しています。
でも、「今日から違法」と言われても、敷地を広くしたり、建物を1階分減らしたりといった大がかりな対処は、すぐにはできません。そのために、「既存不適格」という枠を設けて、適法に対処するまでの猶予を認めています。
しかし、猶予が設けられているとはいえ、法律に違反していることには変わりありません。そうなれば、そのままでは違法建築の売却となって、罪に問われることになるのでしょうか?
こうした不安を取り除き、既存不適格の不動産の売却を少しでも有利に進めるためのポイントを探ってみましょう。
既存不適格のマンションは違法建築なのか?
まず、「昨日まで問題がなかったのに今日から違法」という意味をしっかり把握しなくてはいけません。
既存不適格という言葉を使って、わざわざ猶予を与えているのは、その建築物が建てられた時点では適法であったことと関係しています。つまり、適法で建てられたのに、法改正という不可抗力で違法状態になったことに対する免責制度なのです。
ここで重要なのは、その建築物が建てられた時点では、違法ではなかったという点です。建築時に適法であるかどうかは、建築確認を申請し、完了検査を受けて、その検査済証を行政から交付されていることで証明できます。
建築確認をきちんと受けていない、あるいは検査済証が交付されていない建築物は、そこに何かしらの適法性を欠く要素が存在していると判断されます。
そもそも建築確認を申請せずに着工することが違法なので、検査済証の交付のない建築物は、そのままの状態では既存不適格としての猶予を与えられる対象にはならないんですね。
以上のように、既存不適格の建築物とは、建築時には適法であったことで対応を猶予される対象であること、その証明は完了検査を受けて交付される確認済証によってできることが要件となります。
既存不適格のマンションを売却するときの注意点
マンションなどの建築物が、既存不適格として新たな法律への対応を猶予されるのは、そのままの状態が維持されている場合です。
従って、大規模な改修や増改築、建て直しを行う場合は、法律で定められた新たな基準をクリアしなければなりません。
マンションの建て直しはもちろん、建物自体の大規模な改修や増改築の場合も、改めて建築確認の申請をする必要があるので、ごまかすことはできないです。
なお、検査済証は、完了検査を行った際にしか交付されません。検査済証があれば、その後の法改正で不適格な部分があっても、違法建築でないことを証明することができます。しかし、検査済証がない場合は、どうすればいいのでしょう?
紛失してしまったり、自宅だから必要ないと交付を放置することは、珍しくないようです。また、分譲マンションの場合でも、設計図などの書類とともに管理していたはずの竣工時の建築会社の倒産などで行方不明になることがあります。
マンションの売却の計画が持ち上がったときに、慌てて探しても見つからないのは、概してこうしたことが原因だったりするのです。
ふつうに暮らしているときには、自分が住んでいる建物の検査済証が必要になることはまずありません。そのため管理がずさんになって、紛失する可能性が高まってしまうわけです。
しかし、金融機関のローン利用時には提出が求められることがありますし、なによりも違法状態を放置することは許されず、改善命令の履歴公開や罰則もあります。検査済証がない状態を放置してしまうと、さらに面倒な事態も覚悟しなければならないです。
まとめ
マンションなど建築物の既存不適格とは、完成時には建築関連法令の基準を満たしていたものの、その後の法令の改正で基準を満たさなくなったものに対して、現状での使用を認めるという猶予措置のことです。
違法建築との違いは、完成時に適法と認められていたか否かで区別されます。完成時に適法だったかどうかは、建築確認の申請によって完了検査を経て交付される検査済証をもって証明されます。
検査済証は金融機関のローン審査に利用されるほか、大規模な改修や増改築の申請の際にも必要となります。
この際に紛失や未取得であれば、建築士など専門家による現況調査を行い、その結果を報告書にまとめ、行政などの関係窓口に改めてその建築物の検査を依頼します。
この法適合状況調査を経て、不適格な箇所があれば是正し、適合との判断を受けるまで是正します。それでようやく「既存不適格建築物等調書」が作成され、これを検査済証の代わりに添付することで、同様の手続きを進めることができるようになります。なお、マンションなど集合住宅でこうした手続きを進めるには、管理組合総会などでの決議を経る必要があります。
このように、建築の世界では、違法性のある建築物を排除する傾向が強まっています。それに伴い、不動産業界はもちろん、ローンや証券化などで協力関係にある金融業界などでも、不動産に関するコンプライアンスの1つとして注目度が高まっています。
つまり、既存不適格であることを証明できれば、売却に際しても違法性を問われることがないということです。
ただし、その建築物の活用については、不適格箇所の是正が必要となります。売却に際しては、引き渡し前に是正を求められたり、是正分を理由に値引き交渉があることも考えられます。
既存不適格の不動産は、違法性に関しては問題なく売却できるものの、条件面ではマイナスになることもあります。売却に際して是正する場合は、法令に適合する必要があるので、専門家のサポートをお勧めします。