マンション売却で手数料が格安の仲介業者への依頼は良い?悪い?
慣れないマンションの売却活動も、買付が入って買主が決まり、決済日を待つばかり。後は、無事に売却代金を確認できれば、人生の一大事と言われる一連の手続きから解放される……、と思うのはちょっと早いかもしれません。
というのも、決済は入金が確認できれば済むというものではないからです。
売却代金が売主の手に渡ると、それまで保留されていた支払いが発生することになります。具体的には、税金や手数料。なぜ決済が終わるまで保留されるかと言えば、決済された金額をもとに計算されるものだからです。
ただし、決済が終わるまで保留されるとはいっても、契約書に従って決済が行われるので、実際の支出金額は決済前に計算済で、売主もそうした支払いがあることを理解しているのが不動産取引では一般的。
とはいえ、事前に知らされて理解しているつもりでも、実際に売却代金からそうした費用が支払われて減っていくと、釈然としない気持ちが湧いてくるのも一般的な感情と言えるものだったりするのです。
なかでも仲介業者に支払う手数料は、他の税金や登記費用が交渉の余地のなく決まっているだけに、「なんとかならないか」と思ってしまうわけです。
通常は、仲介業者と媒介契約を結ぶ時点で、成約時の報酬は明記されるので、決済時に交渉の余地はありません。
でも、ということは媒介契約の前であれば、仲介手数料はなんとかなる余地があると言うこと。
最近では、仲介手数料を割引いたり、無料で仲介を引き受ける業者も出てきています。
そこで、そうした格安の仲介手数料は最終的に〇(マル)なのか×(バツ)なのかを検証してみましょう。
仲介手数料の仕組みと格安のビジネスモデルについて
税金や登記費用と違うとは違うものの、不動産取引を業務として行っている業者が、その報酬として受け取ることができる金額もまた、法律で定められていることに変わりはありません。
しかし、この業者の報酬に関して決められているのは「上限」すなわち「これ以上の報酬を請求してはいけません」ということで、それ以下であればゼロであっても違反行為には該当しないのです。
もちろん、業者はビジネスとして仲介業務を行っているので、法律で定められた上限の報酬を請求することが、不動産取引の現場では一般的になっているわけです。
一方で、不動産業界は少ない案件に多くの業者が群がる競争の激しい市場です。特に仲介業務では、マンションを「売りたい」「買いたい」という希望者とコンタクトを取り、媒介契約を結んでおかなければ報酬発生の可能性がありません。
そこで業者は、少しでもその希望者たちに自社を優位であると感じられるようにと、手数料の割引を提案するようになってきたというわけです。
現在、仲介手数料の割引で一般的になっているのが、業者が行った売却活動にかかった費用を精算して請求するというものです。
「かかった分だけ」という言い方だと、もしかしたら定額報酬より高くなるのではないかという不安を抱くかもしれません。
でも、考えてみてください。効果的な売却戦略を業者が提案して、売主が了解すれば実行して、それを精算するわけです。定額よりも請求内容は明快になり、費用対効果を考えた売却活動の実現につながることが想像できるでしょう。
例えば、2,000万円で中古マンションを売却したときに、法定上限の報酬は簡易算定法によれば「2,000万円×3%+6万円」の66万円になります。
これが実費生産方式になると、売却金額の1割程度のエージェント活動費と媒介契約期間3ヵ月中のITなどを活用した経費が同額程度かかるとして、およそ40~50万円で収められるようになるはずです。
仲介手数料を安く済ませるメリットとデメリット
仲介手数料を取らない業者もいます。こうしたケースでは、手数料分が丸々浮いたように見えるので、売主としては「得をした」と感じることも多いでしょう。
しかし、業者はビジネスとして仲介業務を行っています。どこかで帳尻を合わせなければ、経営は継続できないはずです。
業者の利益を確保する方法としては、買い手を自社で探して購入側の仲介手数料をもらうか、リノベーションなど付加価値を付けて売主になるかが考えられます。
しかし、いずれもゼロにした仲介手数料分をカバーするには、高く売らなければならないことになります。高値を付ければ業者が売却できる可能性は低くなります。
ということは、業者が売却することで、ゼロにした仲介手数料をカバーすることは、不可能だということです。
となると、手数料をゼロにする物件に関して、なんらかの操作が必要になることも考えられます。例えば、買い取ってリノベーションするにしても買取業者を紹介するにしても、売却価格は相場より低く設定しなければ、取引は成立しないでしょう。
つまり、仲介手数料分を得したと思っても、実は売却価格を低く抑えられてしまったというようなリスクが、こうしたサービスには潜んでいることが考えられるのです。
まとめ
マンション売却に関して、仲介業務を行う業者へ支払う報酬は、法によってその上限が定められています。
最近では、受注競争を勝ち抜くために、一律で法定上限の報酬を請求することが慣例になっていた不動産業界にも、変化が見られるようになってきました。
なかには「手数料ゼロ円」をうたって媒介契約を取ろうとする業者も出てきています。
しかし、手数料ゼロ円で売主の出費が表面的に減ったように思えても、トータルで「得した」かどうかは判断できません。
業者は利益を確保するために、売却価格を自社に有利になるように操作する可能性があるからです。そしてその業者の操作は、売主の利益を毀損することも考えられます。
かかった経費を明朗会計で請求する業者も出てきています。実費生産方式では、「どんな売却活動をサポートしたのか」が明確になり、売却の成功率と関係づけやすくなるでしょう。
ただし、業者の提案を鵜呑みにして経費がどんどんかさんでいくリスクもあります。
実費生産方式では、業者の売却活動が透明化されます。そのメリットを活かすには、安く済ませるだけでなく、その提案がどれだけの効果があったのかをきちんと見きわめる売主側の姿勢も求められることになります。