マンションを売却するときにホームインスペクションは必要か?
マンションを売却するときに、少しでも付加価値を付けることは、買い手の値下げ圧力に対して効果がある方法といえます。そうした付加価値のなかで、近年注目を浴びているのが、ホームインスペクション(住宅診断)です。
しかし、付加価値を付けても、それに要した費用や手間の分だけ価格を上乗せできるとは限りません。
ホームインスペクションが注目されているからといって、無条件に業者の言うなりに受け入れてしまうと、「この費用の上乗せって意味があったのかな?」と不満が募る原因にもなってしまうでしょう。
そこで、ホームインスペクションとはなにかをおさらいしながら、マンションを売却するときに必要かどうかを検証してみましょう。
中古マンションを売却するときのホームインスペクションについて
ホームインスペクションを日本語にすると「住宅診断」。
住宅を売買するときにトラブルとなりやすい、劣化の度合いや欠陥があるのかどうか、あったらそれをどうするのかといった問題点を明確にして、問題を解消するための期間や費用の概算とともに依頼者にアドバイスを行う、というのがホームインスペクター(住宅診断士)の主な役割です。
ホームインスペクターは、依頼されたマンションなどの住宅の状態を診断するのが仕事です。客観的に物件の状態を判断することが求められるので、第三者的な立場であることが求められます。つまり、売主や買い手と媒介契約などの利害関係がある業者がホームインスペクションを行うのでは、意味がありません。
こうした背景を受けて、国土交通省では平成25年6月に、日本で初めてとなる「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を公表しました。
これには、自前の調査で「問題なし」といった不正隠しが行われないようにする防波堤の役割に加えて、インスペクションの普及を通して中古住宅への注目度と維持・管理への意識をアップさせる効果が期待されます。
マンションなど不動産の売買の過程でホームインスペクションが行われるのは、購入前の検討段階で買い手が依頼するものと、売主が売出前に物件の状態を把握するために依頼するものがあります。
買い手にホームインスペクションの要望がある場合、あらかじめ売主が行っていれば、売却に有利な条件のひとつになるわけです。
ホームインスペクションでは、耐震診断のような柱のコンクリートを抜き取ったり、壁材や塗料の一部を削り取ったりして、分析にかけるような大がかりな調査は、原則として行いません。
基本は目視による調査で、外観に表出する不具合の有無をチェックしていきます。表出している不具合によっては、さらに内部を目視するためのファイバースコープや、表面の温度差を計測できるサーモグラフィーを用いて、不具合の箇所や原因を調査します。
売主が売却するマンションにホームインスペクションを行うメリットとデメリット
ホームインスペクションは、買い手から依頼されるものと売主から依頼するものの2通りある、と述べました。
しかし、実際には、この2つは売買契約を結ぶまでの過程で交渉ごとの1つになることが多く、「誰が依頼するか」ではなく、「するかしないか」を買い手と売主で調整し合うというケースが多いようです。
ホームインスペクションがすでに普及しているアメリカやオーストラリアでは、いずれも買い手がホームインスペクションを行い、契約に盛り込まれた期限までに不具合の指摘をして、なにもなければ契約に違反していないとみなす、という方法が一般的です。
これは、売主によるホームインスペクションで不正隠しなどが行われることを危惧する防止策であるとともに、売主に対処する義務があると判断されていることを示しています。
つまり、「第三者の調査によるホームインスペクションを行うこと」が、世界標準になっているわけです。
これは、売主がセールスポイントのひとつとしてホームインスペクションを行うのではなく、買い手が関与できる中立的なホームインスペクターへの依頼が、不動産売買のコンセンサスになりつつあることを意味しています。
なお、ホームインスペクションによって明らかになった不具合は、それを売主・買主のどちらがどのように負担するかをなどを改めて交渉することになります。
また、ホームインスペクションの結果は、既存住宅の性能表示制度に基づいた評価や、物件引渡し後に発生した不具合の修理費用を補償する中古住宅瑕疵保険の契約などに反映することができます。
まとめ
売却マンションの評価を見える化するために、ホームインスペクションが注目されています。
ホームインスペクションを行うことで、購入後に発生する不具合によるトラブルを大幅に軽減することができます。これは、買主が「傷物をつかまされた」と思わずに済む安心材料になるとともに、売主にとっても瑕疵担保責任を問われる不安を解消する対策になります。
こうした買主・売主双方の安心を担保するために、ホームインスペクションは第三者的な立場をとることができる調査会社に依頼することが必要になります。
世界標準になっているといってもいいホームインスペクション。国土交通省のガイドライン公表などもあって、今後はますます行政も含めて導入がマストになることが予想されます。
マンションの売主にとっては、セールスポイントや、売却交渉の選択肢のひとつとして考えるのではなく、売却経費の一部として考えるべきものと言えるでしょう。